- ベトナム
- 2025/01/17
ベトナムM&Aの現場から~甘く見てはいけない株式譲渡契約後の手続き
ベトナムは社会主義国でありWTOに加盟し自由化が進んでいるとはいえ、依然として経済活動には許可制の部分が多い。
このため、西側資本主義圏での企業買収とは異なり、株式譲渡契約書を締結しただけでは株主変更登記は完了しない。
株主変更登記を行うには、締結済みの株式譲渡契約書のサマリー版をベトナム語に翻訳し、
MPI(計画投資省)またはその傘下のDPI(計画投資局)に許可申請を行い、許可を得る必要がある。
またベトナム特有の書面主義により、許可申請や登記手続きの際に契約書原本の提出を求められることが多い。
このため、サマリー版契約書の原本を複数部準備し、政府認定の翻訳機関で翻訳および認証を受けた書類を用意する必要がある。
さらに、実務上の問題も多い。
たとえば提出する書類の紙質が統一されていない場合、当局から「偽物ではないか」と疑念を抱かれ、再提出を求められることもある。
このような状況を避けるためには、当局との手続き経験が豊富な代行機関を任命することが欠かせない。
そうでなければ日本側で追加資料の準備や差し替えが繰り返し発生し、想定を大きく上回る時間がクロージングにかかる可能性が高い。
特に年末のクロージングを予定する場合は注意が必要だ。
契約書の署名を10月末までに終えていない場合、日本の正月やベトナムの旧正月(テト)の休暇期間が重なり、手続きが停滞する。
結果としてクロージングが翌年3月にずれ込み、担当者が社内での説明に追われるという状況になりかねない。
弊社ではこのようなリスクを未然に防ぐため、プロジェクトの着手段階から事前準備の徹底を強く推奨している。
また、有名な法律事務所や会計事務所に任せれば安心というわけではない。
重要なのは実際に手続きを経験したことのある専門家がいるかどうかである。
現場経験のない担当者では、聞きかじった情報を伝えるに過ぎない。
かつて中国でも同様の問題が長らく存在していたが、
現在では場所を東南アジアに移し、ベトナムが主要な投資先となっている。
このためベトナムの行政手続きの煩雑さや許認可の厳しさが改めて注目されるようになっている。
日本では忘れられた書面主義がここではなお現役であり、実務を進める上で無視できない要素となっているのだ。